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FAQリスト一覧

中小企業経営支援に関するFAQ

事業計画書作成支援(経営革新等)
 新分野に進出することを考えているが、資金調達が必要である。中小企業向けの資金調達について利用しやすい公的支援制度を教えてください。

 経営革新計画を作成して知事の承認を得ることで、資金調達に役立てている場合があります。これは、中小企業等経営強化法に基づく中小企業支援策の活用です。

 前提として中小企業が新しい事業開発を行うことが前提となります。たとえば、建築工事業を営む事業者が、バリヤフリー住宅建設のノウハウを生かして自ら高齢者向け賃貸住宅を建設し、それを運営・管理したり、介護支援サービス事業を始めるような場合が参考になるかもしれません。

 計画書作成にあたってはいくつかの留意点がありますが、ここでは省略します。知事の承認があったときは、以下の支援制度の利用が可能となります。(融資の実行を保証するものではありません。)
① 低利融資制度(兵庫県等)
② 政府系金融機関による低利融資制度
③ 中小企業信用保険法の特例 等

 経営革新計画の策定は3年から5年の中期計画を見据えたものとなりますので、今後の経営計画を見える化したものということもできます。そこで、経営革新計画を社内マネジメントに活用して、社長の思いを従業員に伝えるツールとして活用されている事業者様もいらっしゃいます。

 なお兵庫県の中小企業支援センターである(公財)ひょうご産業活性化センターの無利子融資制度や、その他の制度を活用するという方法もあります。

研究開発計画作成支援
 ものづくり中小企業が利用できる助成金制度や低利融資制度について知りたい。

 鋳造、鍛造、切削加工、めっき、塗装等の特定ものづくり基盤技術に係る高度化に向けた研究開発であれば、中小ものづくり高度化法に基づいて策定された研究開発計画を作成し、経済産業大臣の認定を受けたとき、以下の支援措置が利用できます。
① 政府系金融機関による低利融資
② 中小企業信用保険法の特例
③ 戦略的基盤技術高度化支援事業(委託費) 等

 なお、戦略的基盤技術高度化支援事業を利用するときは、上記の認定とは、別に「戦略的基盤技術高度化支援事業提案書」を各経済産業局に申請しなければなりません。採択されたときは、よくある研究開発補助金とは異なり、研究開発費の全額が委託費という形で交付されます。

戦略法務支援
 各社の得意な経営資源を持ち寄って、中小企業の連携体を計画している。ついては秘密保持契約(NDA)、共同開発契約、販売提携契約等を結びたいが、そのような契約書作成は、行政書士さんに依頼できますか?

 行政書士法「第一条の三」第一項第二号には「行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること」が明記されていますので、安心してご相談ください。

 連携体によって共同で事業を推進するときは、ガバナンスの問題、コンプライアンスの問題をあらかじめ協議することが大切です。また途中でメンバーを抜ける事業者がありうること等を想定し、契約書にイレギュラーが生じたときの取り決めを具体的にしておく必要があります。

 また、独占禁止法に定める「不公正な取引方法」に該当しないような関係構築、「知的財産の利用に関する独禁法上の指針」に沿った契約書作成が大切です。そのような情報提供も含めた契約書作成のお手伝いができます。

株主総会
 当社が第三者割当増資をするときに、投資家から株券を発行して、株主総会を開催して、きちんと事業報告をしてほしいと言われました。株券発行、株主名簿作成、事業報告作成、株主総会案内等といった一連の仕事が必要であるそうです。この株式実務・株主総会関連実務支援をお願いできますか?

 行政書士が行う業務に「権利義務又は事実証明に関する書類」(同法第一条の二第一項)の作成がありますので、お手伝いできます。  

 まず、株券についてですが、2006年5月に会社法が施行されてからは、株券を発行しない会社が増えましたが、会社法施行前は、株券を発行することが原則でした。株券を発行しない会社が発行する会社に変わるのであれば、株主総会で定款を変更して株券発行会社にし、その事実を登記することが必要です。

 株主名簿には、株券番号、株主の氏名又は名称、住所、株式取得日、株式数、取得価格等を記録しておきます。また株主が権利行使時に使用する印鑑の届出もしていただくことになります。総会案内には財務諸表とともに事業報告を添付して案内することになります。事業報告作成を含め、そうした一連の業務のご支援もさせていただきます。

合同会社
 合同会社の代表社員をしています。今年の社員総会が役員改選の年にあたるので、それにあわせて新たに社員を追加したいと思います。実はその社員というのは、私の息子です。資本金の額を変更しないで、私の持分の一部を譲渡する方法がよいかと思いますが、どのような取り決めが必要ですか?

 合同会社が新たに社員を加入させるときは、以下の方法があります。
 ① 加入する社員が出資する。
 ② 既存の社員の持分全部を加入する社員に譲渡する。
 ③ 既存の社員の持分の一部を加入する社員に譲渡する

 上記中①を選択したときは資本金の額が増加しますので、社員の加入とともに増資の手続きも必要となります。②又は③を選択したときは、資本金の額に変動はありませんので、社員の加入手続きのみでよいことになります。

 今回は、「資本金の額を変更しないで、お客様の持分の一部を譲渡する方法」を予定されているとのことですので③について、ご説明します。

 定款の「業務執行社員」と「代表社員」の定めを確認します。社員全員が業務執行社員である場合もあれば、業務執行社員以外に業務執行社員でない社員を置いている場合もあります。後者のときは、加入を予定する社員を業務執行社員とするのかしないのかを選択します。

 また、定款に「業務執行社員は各自当会社を代表する。」との記載があれば、業務執行社員の全員が、それぞれ「代表社員」となります。一方、「代表社員は業務執行社員の互選をもって、これを定める。」とあれば、業務執行社員全員の一致により代表社員を選定します。

 ここでは、社員がすべて「業務執行社員」となり、それぞれが「代表社員」となる場合について、例をあげてご紹介します。(実例ではありません。)

クロニクル合同会社 
本   店:兵庫県星空市満天町1616番地の55
資本金の額:金240万円
業務執行社員:3名(社員3名)
A野春子 出資80万円 代表社員
B山夏男 出資80万円 代表社員
C川秋子 出資80万円 代表社員

業務執行社員A野春子は、息子のA野冬雄に自ら保有する持分の一部(20万円)を譲渡し、業務執行社員として会社で働かせたいと考えた。

 社員の加入には、社員全員の合意が必要です。会社法第585条に「社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない。」との定めがあるからです。また加入とともに業務執行社員その他の事項について定款変更しなければならず、持分譲渡承認に加えて定款変更についても社員全員で合意することが必要です。以下に持分一部譲渡証書と合意書の例を示して、総社員による承認の流れを実務面から「見える化」したいと思います。 この他に、代表社員の就任には就任承諾書が必要です。

持分一部譲渡証書

同意書

株式会社運営支援
 昭和40年(1988年)に設立した株式会社ですが、平成16年5月の定時総会で取締役と監査役全員を選任してから、その後、選任していません。役員はどのような扱いになるのですか?

 貴社が、これまで定款変更により株式譲渡制限の規定を設けていないこと、資本金が1億円以下であるという前提でご説明します。
 取締役については、任期2年ですので平成18年の定時総会開催が可能な最終期日である平成18年5月31日をもって退任となります。監査役については、任期は4年ですが、平成18年5月1日に会社法が施行されている関係から平成18年5月1日をもって退任となります。

 監査役が平成20年5月31日ではなく平成18年5月1日をもって任期満了となる理由は、貴社が公開会社であることに関係しています。

 中小企業でよくみられる「株式譲渡制限会社」というのは、定款に「当会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会の承認を受けなければならない。」又は「当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を受けなければならない。」といった規定を設けている会社のことです。この制度を活用できるようになったのが、昭和41年7月1日の改正商法施行日以降です。それ以前に設立された会社は、すべて株式の譲渡制限を設けていない会社、すなわち公開会社です。そこで貴社は公開会社となります。

 「公開会社」は、上場会社と同義のように受け止められている場合がありますが、たとえ小会社でも公開会社となっている場合とは、上記の事情によるものです。 さて、現在の会社法のもとでは、株式会社の監査役は、「会計監査権限」と「業務監査権限」を有することになっています。しかし、会社法施行前までは、小会社の監査役は会計監査権限のみを有していました。そこで、会社法が施行された平成18年5月1日から監査役の権限が拡大してしまうため、退任することになりました。
 もともと権限を会計に限定しているものとして選任した監査役であるので、一度退任させて、あらためて、業務監査権限まで有していることを前提とした監査役を選びなおす必要があるためです。
 選任を忘れていたということですので、すみやかに臨時株主総会を招集して、取締役と監査役の選任をおこなってください。

企業価値創造支援
 「企業価値の創造」とは何ですか?

 企業が自らの強みや魅力、そして置かれた環境を把握し、狙うべき顧客を定め顧客に評価される自らの訴求点を決定し、どのようにして顧客に価値を伝えるかを明らかにして、顧客満足に繋げる一連の取り組みをいいます。

 それゆえ、ここでいう「強みや魅力」は、単なるこだわりを超えて「競争力の源泉」たりうるものとなります。そのような「強みや魅力」は、「見えない資産」とか「知的資産」と言うこともあります。

 競争力の源泉である知的資産を活用して、経営に生かす経営を「知的資産経営」と表現することがあり、経済産業省もこれを積極的に推進しています。

知的財産マネジメント支援Ⅰ
 ある特許権について、2013年2月から特許権者Aさんから通常実施権の許諾を受けて行っている事業がある。Aさんが他人にその特許権を譲渡したり、破産などで特許権が移転したときの対抗手段としての登録制度はあるのでしょうか?

 2012年4月1日の改正特許法の施行により、第三者対抗要件としての通常実施権の登録制度がなくなりました。そして、新しい特許権者に対して、何らの手続きも要することなく対抗できるようになりました。これを当然対抗制度と言います。

特許権図

  この特許法の一部改正については、実用新案法・意匠法にも準用されているので、それらについても当然対抗制度が適用されています。

 なお、商標の通常使用権については、当然対抗制度は導入されていないので、従来通り、ライセンシーが新しい商標権者に対抗するためには、通常使用権の登録制度を活用することが重要です。

 ※ 特許権の移転とともに、ライセンサーとしての地位も移転するとする説、ライセンサーとしての地位は移転しないとする説、ライセンサーとしての実施料請求権等のみが移転するとする説があります。 通常実施権設定契約では、そうした状況をふまえ、問題点を残さないような取り決めがもとめられます。

知的財産マネジメント支援Ⅱ
 特許権の年金納付を忘れてしまいました。なんとか権利を継続させることはできませんでしょうか?

 納付期日経過後であっても、6カ月以内であれば、追納により本来納付する金額の2倍相当額を納付することで、権利を存続させることができます。

 なお、「自動納付申出書」を提出することにより、「申出人の予納台帳または指定銀行口座から特許料等を徴収し特許(登録)原簿に一年ごとに自動登録する制度」を活用すれば納付忘れを防止することに役立つかもしれません。

知的財産マネジメント支援Ⅲ
 これまでにないユニークな形状の「台所用手動式調理用具」を販売したところ、販売が好調で、販売開始後3カ月になって、増産を始めました。ところが、他社がそっくり商品を販売するようになりました。特許か実用新案か意匠を出願しておけばよかったのですが、特許庁には出願はしていません。有効な対抗策はありませんか?

 販売後3年以内であれば、あきらかに貴社商品に依拠した実質的に同一の商品(そっくり商品=デッドコピー商品)の販売者や輸出入事業者に対して、差止請求や損害賠償請求をすることが可能です。また、刑事的措置も可能です。

 これは、不正競争防止法第2条第1項第3号に規定された「商品形態模倣行為」に該当する可能性が高いためです。不正競争防止法第2条第1項には、「商品形態模倣行為」のほか、「著名な商品等表示の冒用行為」「営業秘密の侵害行為」等合計15の行為が不正競争行為の類型として列記されています。産業財産権(特許権、意匠権、商標権等)のように特許庁の登録原簿に登録されたもののみが保護されるのではなく、不正競争防止法で禁止行為とされたものであり、一定の要件を備えたものであれば、登録された権利がないときでも保護されることになります。

 なお、他人による「商品形態模倣行為」に対して対処可能な時期が、「販売から3年以内」という点にご注意ください。ユニークな形状の商品、従来にないすぐれた機能の商品を開発されたときは、産業財産権の手当てをご準備されることをおすすめします。(特許出願や意匠出願は、弁理士さんの独占業務です。)

知的財産権担保融資関連支援
 中小企業事業者です。当社の特許権を使って知的財産権担保融資を受けようと予定しています。知的財産権担保融資に関係する書類の作成等について、行政書士さんにお願いすることはできますか?

 はい。
知的財産権担保融資については、①質権設定タイプと②譲渡担保権設定タイプのうち、いずれかの設定契約書が必要となります。

 貴社と金融機関との間の金銭消費貸借契約書に基づいて、たとえば、質権設定契約書を締結するとともに、特許庁に対して「質権設定登録申請書」を提出して、その事実を特許登録原簿に登録します。この設定契約書作成及び、特許庁への登録申請手続きは、行政書士が行うことができる業務です。

 知的財産権に質権が設定されても、有体物の質権とは異なり、貴社はその特許権を実施することができます。占有の移転を伴わない契約となるため、抵当権に近いものとみることができます。

事業承継支援
 行政書士さんが行う事業承継支援とは、どのようなものですか。

 大きく分けて、「経営の承継」と「株式・資産の承継」のふたつに分けて整理しましょう。

 「経営の承継」にあっては、会社のもつ知的資産(技術力、ノウハウ、ネットワーク、社内教育体制、顧客からの信頼等)の見える化を経た上での継承が重要です。

 会社の知的資産の中でもっとも継承が困難なものは、社長の人的資産です。人的資産は、その人が会社にいなくなれば会社に残らない知的資産です。社長の個人的信頼関係、社長がいるからこそ実現できる、有利な仕入れ条件等です。これを会社の財産に変えるべく、人的資産の構造資産化が重要な課題になります。社長在任中に組織の資産に代えていくことが大切です。

 経営者の大切にした経営理念をその背景も含めて後継者に伝えていくこと、業務知識やリーダーシップその他のノウハウの教育も重要です。そうした人的資産の構造資産化の支援、社内教育体制の課題の抽出と検証、知的資産の見える化支援を行うことができます。

 次に「株式・資産の継承」についてですが、中小企業の多くの社長は、自社株の過半数または2/3以上を保有していることが多いと思われます。現役のときは、合理的なことも多いとは思われますが、たとえば子どもに事業承継するときには、後継者の子どもとそれ以外の子どもに均等に株式を相続させると、後継者が行動に制約を受けることも予想されます。

 そのようなとき、たとえば、種類株式制度を活用して、継承者の子どもには普通株式を相続させ、その他の子どもには種類株式のうちの議決権制限株式を相続させるという方法も考えられます。また、後継者が多額の債務を引き受けてしまうことも考慮し、相続税もにらんだ継承計画を立てる必要があります。これらと合わせて、①事業運営の効率化、②事業ポートフォリオの最適化、③不要な投融資の処分、④資本構成の最適化といった財務課題の解決のための取り組みも重要となります。こうした課題を税理士、会計士さんと連携をとりながら推進することができます。

6次産業化支援
新規事業で農業を考えているのですが、最近よく聞く六次産業化とは、どのようなものですか?

 「6次産業」は、農業経済学者今村奈良臣氏(東京大学名誉教授)の提唱による造語です。1次産業(農林漁業)と「2次産業」(加工)と「3次産業」(流通・販売)を複合化、総合化したものを意味します。そこで、以下のような数式的イメージで説明されています。

 《1次産業×2次産業×3次産業=6次産業》
    ※ 4次産業や5次産業を想定した上での6次産業ではない。

 これを受けて、農林漁業者が自らの生産物の価値を高める工夫を行い、所得を向上させることにより、農山漁村の経済を豊かにする取り組み「六次産業化」といいます。

 六次産業化にあっては、農林漁業者が2次産業や3次産業をすべて担う必要はなく、2次産業や3次産業を担う他の事業者との連携により、六次産業化の事業を推進することができます。ただし、農林漁業者が含まれない連携体の取り組みを六次産業化と表現することはありません。

 六次産業化をイメージしやすいように、具体例を示すと、菜の花栽培農家が、栽培した「菜の花」(1次産業)を加工して「エクストラバージン菜種油」(2次産業)を作り、これを小分けして、おしゃれなデザインのラベルをつけて100グラム入り小瓶の商品形態で道の駅で販売(3次産業)しました。これが好評であったために、菜の花の開花シーズンに「グリーンツーリズム」(3次産業)の企画又は開催を行い、地域あげての観光収入の増大をも図ったというような場面が参考になるかと思います。

 このように、六次産業化は、取り組んだ農家等の収入の増大にとどまらず、地域の雇用の創出、地域農産物等の付加価値開発による観光資源の充実、農地を含む地域資源の維持・保全等にも寄与するものとして、注目を集めています。

 (大阪府行政書士会業務部2013年発行「行政書士のための『知的資産経営ガイド ブック』」より、筆者執筆部分を一部抜粋)

価値創造支援
農産物の加工を行う事業者ですが、「地理的表示」が保護されるようになると聞きましたが、どのような内容ですか?

 「地理的表示保護制度」を確立するための「地理的表示法」(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律)は2014年6月に成立しました。「地理的表示」とは「農林水産物・食品等(「特定農林水産物等」)の名称であって、その名称から当該産品の産地と結びついているということを特定できるもの」とされています。

 具体的には、「地名+産品名」という構成からなりますが、大切なことは、「その名称から当該産品の産地と結びついているということを特定できるもの」ということです。たとえば、「鹿児島黒酢」は、「主成分の酢酸のほかに多種類の有機酸を含み、特有の香りまろやかな酸味を有する。」ことや「熟成期間に応じて、黄~こはく色を呈する。」という産品の特徴を有しており、これが「微生物の活動に適した寒暖差が少ない温暖な気候。米、麹、水のみを薩摩焼の壺に入れ、1年以上の発酵・熟成工程が屋外に置いた同一の壷の中で自然に進行する、江戸時代後期からの伝統的な製法」(農林水産省「地理的保護制度について」平成24年3月資料より抜粋)という「地域との結びつき」が認められるものとなっています。

 海外では、イタリアのパルマ地方の豚モモ肉と塩のみを原料とした生ハムについて「プロシュート・ディ・パルマ」の地理的表示が使用されていることは有名です。「アペニン山脈から丘陵に吹くそよ風が空気を乾燥させ、伝統的な製法で、何世紀にもわたり、生ハムの製造を可能にしてきた。」(農水省「地理的表示について」平成27年4月資料より引用)という地域との結びつきが認められるものです。

 一方、「小松菜」はアブラナ科の野菜ですが、この名称は東京の小松川(江戸川区)に由来しているということです。ところが現在では、小松菜の生産地は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県等で全国の約8割を生産しており、福岡県、大阪府でも生産しており、たとえ地名を含んでいたとしても「地域との結びつきの乏しい産品の名称(普通名称)」であるときはこの保護制度では登録できません。「さつまいも」(薩摩芋)も同様の理由により登録できないものと理解されます。

 これまで、農山漁村地域では、「長年培われた特別の生産方法などにより、高い品質と評価を獲得するに至った産品が多く存在しますが、これまでその価値を有する産品の品質を評価し、地域共有の知的財産として保護する制度が存在していなかった」(本法律案提案理由説明)という事情があり、「地域で育まれた伝統と特性を有する農林水産物・食品のうち、品質等の特性が産地と結び付いており、その結び付きを特定できるような名称が付されているものについて、その名称を地理的表示として国に登録し、知的財産として保護する制度を創設」(本法律案提案理由説明)することとなりました。

 ※「知的財産」と「知的財産権」との相違については、知的財産基本法第2条の定義をご参照ください。

 特許庁で登録して権利が発生する「地域団体商標」は、「地名の名称+商品又はサービスの普通名称等」という構成ですので、「地理的表示」と似た印象がありますが、実際には以下のように多くの相違点があります。

  地理的表示保護制度 地域団体商標制度
対象 農林水産物、飲食料品等(酒類等を除く。) 全ての商品・サービス
申請主体 生産・加工業者の団体(法人格のない団体も含む。) 事業協同組合等の特定の組合、商工会、商工会議所、NPO
産地との関係 品質等の特性が当該地域と結びついている必要 当該地域で生産されていれば足りる
伝統性・周知性 一定期間継続して生産されている必要(伝統性、概ね25年以上) 一定の需要者に知られている必要(周知性)
品質基準 産地と結びついた品質の基準を定め、登録・公開する必要 制度上の規定はなく、権利者が任意で対応
品質管理 生産・加工事業者が品質基準を守るよう団体が管理。管理状況につき国の定期的なチェックを受ける。 制度上の規定はなく、権利者が任意で対応
登録の明示方法 GIマークを付す必要 登録商標である旨の表示を付すよう努める
規制手段 不正使用は国が取り締まる 不正使用は商標権者自らが対応(差止請求等)
権利付与 権利ではなく、地域共有の財産となり、品質基準を満たせば、地域内の生産者は誰でも名称を使用可 名称を独占して使用する権利を取得
保護期間 取り消されない限り保護される。(費用は最初の登録免許税) 登録から10年の保護。更新によりさらに10年の保護。(登録料の他に10年毎の更新費用が必要。)
海外での保護 地理的表示保護制度を持つ国との間で相互保護が実現した際には、当該国においても保護される。 各国に個別に登録を行う必要

(農水省「地理的表示について」平成27年4月資料より引用、一部修正)

 地理的表示保護制度の対象欄に「酒類等を除く。」とあるのは、「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」によって、すでに地理的表示の保護がなされているためです。

 地理的表示の登録を行うメリットとしては以下の点が挙げられます。

1 産品の品質について国が「お墨付き」を与える。
「地理的表示」を生産地や品質等の基準とともに登録するものであり、その産品が満たすべき基準を明らかにするとともに、事業者毎に定める「生産工程管理業務規程」に定めた事項を順守しているかどうかを国に毎年報告することを通じて、「地理的表示」を付した産品の品質を担保することができるようになります。

2 品質を守るもののみが市場に流通する。GIマークにより他の産品との差別化が図られる。基準を満たしたものに「地理的表示」の使用を認め、あわせて「GIマーク」を付すこととしています。
※「GIマーク」:登録された産品の地理的表示と併せて付すものであり産 品の確立した特性と地域との結び付きが見られる真正な地理的表示産品であることを証するもの。

3 訴訟等の負担がなく、自分たちのブランドを守ることが可能。
基準を満たしていない産品に地理的表示を付すといった不正な地理的表示を行う者に対して、国が取り締まりますので、生産・加工業者の団体の負担が軽減されます。

4 地域共有の財産として、地域の生産者全体が使用可能 生産・加工業者の組織する団体を登録申請人とします。その定款、約款等には「加入の自由」を定めることが求められます。地理的表示を使用しようとする者に対して、正当な理由なく加入を拒んだり、困難な条件を付してはならないとされていますので、文字通り地域共有の財産として使用することとなります。

 地理的表示保護制度(登録制度)は、平成27年6月1日から施行されます。
農林水産省への地理的表示登録申請には、申請する団体の定款等の作成、申請書、事業者毎に必要な明細書、生産工程管理業務規程等が必要です。そうした書面の作成支援と申請代理は行政書士業務です。

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